2008年01月13日

0240『痛々しいラヴ』

★★★★★5
痛々しいラヴ
痛々しいラヴ
魚喃 キリコ

ナナナンの最高傑作!だと思う!

人物達の表情が多彩で、はさまれる詩的な文章、ストーリーの多様さなどから、僕はこの短編集が一番好きだ。
男の子をときどき主人公に起用するのも、この短編集ならではではなかったか。

なんというか、きれいにだけ描こうとしてない。
ちゃんと汚い事とかも描こうとしている。
だからこそ、タイトルみたいな「痛々しさ」が出る。

今までバカだと見下してきたけど
オヤジ相手にパカパカ足開いてる少女の皆さん達
君ラはエライよ
それもビッグバーゲンプライスで

同情するよ
尊敬するよ
泣かせてくれるよ(p19)

創作の練習のために、以前、「ライフプランニング」を一部小説化したことがある。
以下、興味がある人はどうぞ。


小説『ライフプランニング(第1話 近田編)』

なんかおもしろい話でも
しようと思ったんだけどさ
ホラ ドラマとかっておもしろいじゃん
でもあれってさ
普段おこらなっぽいことがおこるから 
おもしろいんであってさ
べつにフツーに生きてたら
そーゆーこともないし
あったとしてもスケールがちっこいからさ
おもしろくもなんともないんだけど

でもおもしろいことってないかな
おもしろいことがおこんねーかな

§

 まぬけな音たてて、時計がオレ起こそうとしてる。電子音ってどっか脳のべつのところを刺激してる気がする。寝起きざまにカノジョが背中ごしに、静かなセックスのときみたいな声で刺激するのとはべつのとこ。手をのばして時計おとなしくさせて、もちょっと寝てたい。
「おはよォ」
なんて寝ぼけた声でカノジョ、ささやく。口開けるのもめんどくさくて、閉じたまま返事する。
「ごめェん。きのう明けがたまで電話だったから朝ごはんつくれない。ねむい。ごめん。」
 やっと口開く。んー、いいよべつに。カノジョが眠そうだとオレのほうは目が覚める。こんなオレでも、男のシュゴ本能みたいなもんでしょうか。
 歯磨きしながらカノジョの電話記録ノートを見る。かせいでんなー。同棲2年目。カッコ良くレコード屋でバイトしてた女はいつのまにか予約制ツーショットダイヤルと伝言ダイヤルの売れっコになってバカバカかせいでる。んでオレは、バイトしてんだけどその金は全部自分のもんになってて、おこづかいは自分でかせぐヒモみたいんなってる。これもいわゆるアンテーしたカンケーつうんでしょうか。きわめて楽チンで平凡な生活。
 仕事にあるってくと、歯医者のまえを行くのはなつかしのサワダさん。こんどう歯科なんて、「今度おいで」みたいで、今まで歯医者にかかったことのない逆皆勤賞のオレは好きじゃない。サワダさん。この前バイトに出たときからだから、はて、何日ぶりでしょう。おはようって声をかけるとていねいに「おはようございます」って返してくれんの。
「ひさしぶりですね、近田さんが仕事来るの。当日欠勤ばっかりで店長おこってましたよォ。」
 あらー、なんて言って、まあ別になんとかなるんじゃないの、まあまあそんな気を遣ってもらってありがとう。オレ、ちょっとこのコのこと、好き。

「近田。やる気ないんならやめさせてあげようか?」
 んー、もしかしてなんとかならない?店長まさしくごりっぷく。えー、あ……、はァー、なんて間の抜けた返事はかえって逆効果。
「はァじゃないでしょーがっ。」ときどき効果あるんだけどなー。いやべつに効果があるとかないとかで使ったり使わなかったりするほど器用ではないけど。
「あんた今月始まったばっかりで4日も休んでんのよォ!?」
 いつのまにやら4日ですか。しまったなー。
「いい?今度一回でも当日欠勤したらやめてもらうわよっ」
 あと1回ぐらいは……
「駄目ッ!1回でもっ。いいわねっ!」
 ちょっとしょーひんの整理して、トイレ行く。和式の便所で、客と兼用。いろいろチラシがベタベタ貼られてる。店長がご自慢のマッキントッシュで自作したチラシを貼り替えたりするのはバイトの仕事。便器はきつめの原色で塗ってあって、まあこれはこれでかっこいいんでないの?
 トイレを出ようとするとまたサワダさん。あらオシッコ?手のひらで、どうぞ?ってやったら、
「オシッコしません」
とサワダさん。いやいやアイドルでもオレのカノジョでもオシッコするからってそういう話じゃないか。このコどんなオシッコするのかしらん、なんて変なこと考えたりして。そういうシュミはぜんぜんないので、別にだからどうってことないんだけど。
「あのっ」
 はいはいどうした、と思っていると、
「店長からききましたっ。」
 え、あらあれ公言してるの。じゃああれ冗談じゃなかったの?
「とても冗談にはきこえませんでした。」
 そんな真剣な顔して言われてもなあ、あちゃー、このバイトももう先は短いかなあ、
「だからあの……お願いッ。」
 お願い?
「今月は真面目に仕事来てくださいッ」
 真面目、まじめ、マジメ。オレ、けっこうマジメに働いてるんよ?けっこうフツーと思ってるんだけど、たいていセケンはそう言わない。どうしてでしょう。オレたぶんホントにクビんなるよ。休まない自信まるでないもん。だって、人間、タマシイのキュウソクは必要でしょう。
 そしたらサワダさん、なんつったと思う?
 聞いたあと、値札がどうとか、にせんきゅうひゃくえんとかいう店長のぴりぴりした声が聞こえたんで、思わず身体びくってなったよ。そんな感じ、めちゃくちゃひさしぶり。一瞬意識が飛んだもんなー。
「近田さんに」なんてサワダさん目をふせて、「近田さんに彼女いるのは知ってるけど、おんなじ女(ひと)とばっかりじゃ飽きるでしょ?あ、でもおんなじ女(ひと)とばっかりじゃないのかもしれないけど……あのっ、ただやめないでって一方的にお願いするのはわがまますぎると思うので、ですのであのおかえしというか、なんというか……」なんというか……沈黙。目をふせてる姿がちょっとどきどきさせる。
「あー……ははは。何ゆってんでしょうかあたし。」緊張した面持ちで笑おうとして、それ隠そうとするように頭さげて謝って、こんな男に頭なんてさげないでいいよ、そんな、泣かなくていいよ、出てきたことばは、
 それはどうもありがとう。

「エッチさせてあげるから、休まないで近田さんっ!」

 ……いただきました。

   §

 ただいまーあ。
「おかえりィ。おそかったじゃん。おフロ旅の宿%れてあるよー。」
 あ……じゃーはいろっかな。あはははは。電話?がんばってね。
「がんばるわよー。バカ相手にウソついてんのってたのしいもん。」
 そう言って彼女、電話のテーブルをひこずる。
 フロに浸かりながら、サワダさんの胸の感触を思い出してた。あー見えていがいにあったりすんだよなー、って指まげて、どんくらいだったか確かめたりしてる。開いた手のひら見ながら、そっか、やめたら会えなくなンだよなー……。

「おきて。ねえねえ、おきてよーォ」
 ん?今何時よ?電話終わった?
「今終わったー。ねー、天気がねー、すっごいいいの。江ノ島行かない?サザエのつぼ焼き食べようよ」
 んー……そんな休んだらオレ、今度こそ仕事クビんなっちゃうよォ。
「いいじゃないそんなの、また見つければ。ねェ行こうよー。」
 ……天気いいの?
「いいよー、すっごく。」
 晴れた青空。江ノ島の道。サザエのつぼ焼き。
 オレってほんとダメなー、と呟くと、
「ははは。」
ってカノジョに笑われた。
 楽チンで平凡な生活は、楽チンで平凡で、べつにおもしろく急転換なんかしなくていいかなと思わせる。
 サザエのつぼ焼きはビールに良く合ってて、すげェおいしかった。
posted by B&M at 05:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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