漫画家しりあがり寿さんのエッセイ集である。
エッセイ集であるのだから、全体のまとまりは、著者という「ヒト」という柱である。
でもこのエッセイ集は、それに加えて大和書房HP連載「人並みといふこと」という題名にもなっているテーマがあるため、ところがどうして、なかなかに一本柱が立つのである。
押井守氏の言う「凡人」とか(『凡人として生きるということ』)、阿部謹也『「世間」とは何か』、村上龍氏のいう世間(はない)とか、
「ふつー」
それについて掘り下げていく。
それは、世間という時に自分で考えることをせず大衆におもねることであったり、簡単にはシアワセをつかめなくなった個人主義の時代の憂いであったり、なくなることで他人との「共感」が難しくなった共有していた空気であったりする。
巻末には、人並みとは言えない夫婦の『他所(よそ)へ・・・』という短い漫画が暗示的に収録されています。
でも今は違う、人並みに落ち着こうと思っても世界の変化はそれを許さない。(…)「人並み」が高嶺の花になっちゃったみたいだ。
(…)
一生勤めようと思った会社がつぶれ、苦労して習得した技術がたちまち時代おくれになり、時代が変われば自らが得た人生訓を子に継ぐこともできない。モノゴトは流行っては廃れ、盛者必衰はひっきりなし、善悪や好悪や敵味方やあらゆる価値観までもがルーレットの目の上に乗せられ、「ここに賭けて」と悲鳴を上げている。
そのうえ、いつだって賭けなかった方の目、失われた別の可能性の亡霊がボクたちを苛立たせる。「もっといい選択はなかったのか?」「あっちのほうがシアワセそうだぜ」「自分の人生は無限の可能性のたったひとつに過ぎない」。(p225,226「おわりに」)