2007年09月22日

0089『コミック文体練習』

★★★★4
コミック 文体練習
コミック 文体練習
マット マドン

レーモン・クノーという人の『文体練習』をコミックでやろうという意欲作。

本書を読むことは、「語られている中身」に対して「語る方法」がどんな効果を及ぼしているかを考える機会になるだろう。(序文)

ひとつのストーリーを99の方法でアプローチする。

時として、語り方はストーリーに深みを持たせる、ということが、この本からはわかる。(ただ語る人物が変わる、という原始的な方法から、なんと、そんなことまで!というエキセントリックな語りまで。)
時々取り出して、雑誌感覚で読みたい本だ。

小説作家には文体、というものがある。
その文体によって、語られるものごとが違った彩りを見せてくる。
それが、我々読者の現実世界を「異化」するとき、小説を読むことの豊穰さを実感させられる。

それはすなわち型ということで、スタイルということだ。(斎藤孝氏はよくこれらのことに言及する。僕は斎藤氏からはじめて型やスタイルということを学んだ、と思う。)
それはある決まったトンネルみたいなもので、あるいは色眼鏡のようなものだ。
それを手に入れて、現実をそこに放り込むと、ある決まった変数がかけられて結果がねじまがる。
そこに新しい世界が開けている。

訳者の大久保氏は『文学におけるマニエリスム』が『コミック 文体練習』の最良の参考書になるのではないか、と書かれている。

マニエリスムとはなんぞや、と思ってちょっと調べてみると、マンネリズムの語源にもなったといわれる15世紀イタリアの芸術運動のようだ。
マニエリスム - Wikipediaマニエリスムとグロテスクを閲覧したが、どちらもよく似た文章になっている。後者の方が画像もあって少しだけ内容が豊かか。)

ただ、マンネリ自体の語源を検索で調べてみると、英語のmannerからだ、とある。
マンネリ - Wikipedia
マンネリ - 語源由来辞典
マンネリ : デイリーヨミウリ記者のコレって英語で? : 英語 : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

まあ、どちらでもいい。
ともかくマニエリスムとは、ミケランジェロやラファエロの画風の模倣からはじまる。
「文体の模倣は、新人作家が誰憚(はばか)らず、大威張りで試みていいことである。」(スティーブン・キング『小説作法』p184)とキングは述べているし、さまざまな作家が自分の文体に影響を与えた先人たちの名前を挙げたりする。
その文体という色眼鏡を使って世界を見るのだ。

「寒い」という言葉を知らないと、我々は寒いと感じられないかもしれない、という哲学の話を聞いたことがある。
ことばという色眼鏡で、我々は世界を他のものとして見ているのかもしれない。
であるならば、次はその言葉をいかに使うかの文章家の「技」にかかってくる。
その「技」を盗んで、我々は生きている。
この「技」というのは、たぶん「文体」とほとんど同義なのではないだろうか。

本書はこうした文体について考えさせてくれる優れた本だ。
著者マドン氏が参考にした・模倣した・換骨奪胎したクノー氏の『文体練習』も読んでみたい。

 陳腐な「内容」の物語に感動を求める風潮に辟易している読者に、『コミック 文体練習』は、ひたすら「形式」に徹することから生れる快楽を与えてくれるでしょう。(訳者あとがき)
posted by B&M at 14:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする